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劇団離風霊船 山岸諒子の徒然をつづる雑感ノート 「ラ・ヴィータ・ローザ」です


by rosegardenbel
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白船  

              *  *  *



 草の穂の 果ての名残りの夢のあと

黒船城をバラしてきました。
い~いお天気で、、、建て込みの日々もこんなだったら、
もっとちがった心持ちで初日を迎えられただろうか、
なぞとつい、思ったりもしながら、粛々と。

建てるとなると追われることばかりで、ゆとりもない分、
浮き足だつ高揚感で、目もらんらんと光るような状態でしたが、
終う日は、時間を気にしながらも、やはりどこか落ち着いた空気で、
みんなも口数すくないように思えたのも、
何か、ひとつひとつが胸に返ってくるような気がしていたからですかね。

ずーっと再会したかった景色を撮りました。
いつも楽屋から裏へ回るときに見ていた、白い景色。

おりょうは、芝居なかで脱いだあと、ニ度目の登場のための着付けを、
なんとそのまま二階に残ってやってたのです。
診療所のシーンの真上で、神谷にきてもらって、こっそり(笑)
芸者の仕度はとても時間がかかるので、
楽屋まで行って来いしてるヒマがなかったのです。

で、幕間休憩になって楽屋に戻ってきても、
今度は襦袢からの全とっかえと、おぐしのお直しがあるので、
なんとか一息つけるのは、ABCの寺子屋シーンが終ったころ。
でもまだこの後、緻密な音合わせをしているために絶対セリフを噛めない、
ええじゃないかのシーンがあるから、むしろ緊張はピークなんですけど。

そのドキドキを鎮めるために、外に出て、
闇の中に白く浮かび上がる、半月型のインターコンチネンタルと、
大観覧車の青や緑の光とが作り出す、
この場とは、おおよそ不釣り合いに近未来な景色を眺めるのが、
日課になってたんですね。

黒船では、
あたしはみんなにずいぶん迷惑をかけていました。

体力がなくて、みんなの十分の一も働けていなかった。
初日に間に合うように、誰もが鬼になって、
やってもやっても終らない労働の泥沼の中で疲れきって、
人を思いやるゆとりなんて、求める方が酷なぐらい、辛い現場でした。
今だから言える。

そんな中で、あたしは一人、みんなから庇ってもらっていました。
誰も、一言も、そんなことは口にしなくて、
疲弊する仕事は振らないように、端からはずして考えてくれているのだと、
わかったのは、初日があけてからでした。
本番中でさえもあたしには、さりげなくテント番を免じてくれていた。
それなのにあたしは、大きく誤解をしていて。

来る日も来る日もヘドロにまみれながら、命を削るようにして小屋を作る、
そんな重労働を回されず、稽古場にいるように言われたのは、
あたしが一人、言いづらいことをもの申して、勝手をしているからだと、
小道具というちまちました部署を言い訳にすればいいよと、
思われているような、そんな疑心暗鬼で、
ゲッソリとやつれ果てた不機嫌なみんなを迎えるたびに、
ずーっと、責められているようで、こわかった。

舞監の青木に、テントで働きたいと言ったら、いいよ来なくてと言われた、
来たって役に立たないんだからと言われているように聞こえて、
それが悲しくて、この集団にいるということの意味まで、
問うている自分が腹立たしく、なすすべなく。。。

情けないことに、腑甲斐ないことに、そんなことを思っていたのです。

本番の何日目だっただろう、
お客さまの歓声を遠くに聞きながら、つかの間、
すいかを切って立てたような、白いホテルを眺めて、
ふと気づくと、煙草を吸いにきた青木が横にいました。

大学時代から変わらず、口下手なのに伶俐な青木さんとは、
あまり話の接ぎ穂がなくて、つかずはなれずの距離できた、27年。
今夜も、少し迷ったけれど、同じものを眺めているのに気づいて、
言ってみた。

 あたしには、あれが、船に見えるんです
 え?
 ほら、すいかのホテルが帆みたいで、下の建物が船体みたいじゃない?

あ、ほんとだぁ~、と笑った青木の声は、子供みたいな声でした。
ふふふと返して、また何ごともなかったように戻る青木を見送って、
あたしは、
ちょっと、
困った。

何か、だいじなものを共有してしまったような、
思いがけず、あたたかい水が、何週間ぶりに急に逆流して、
足下をさらわれそうな、そんな感覚になって。

そうして、それが横浜にきて青木と交わした、
はじめての「会話」だったことに気づいた。
その時、、、あたしは庇ってもらっていた、ということに、
気づいて、
泣けた。

会いたかったんです、あの場所の、あの角度でしかダメな、
すいかのホテルの白い船に、だから。
再会したら、終る。
前に進める。
そう思って。

そう、あたしにはこう見えてるの。



みなとみらいには、
黒船のうしろでずっと、かいなを広げて見守ってくれていた、
もうひとつの夢の船がいましたよ。


              *  *  *
by rosegardenbel | 2008-11-06 00:00 | ラ・ヴィータ・ローザ